大腿骨頸部骨折はほぼ手術療法が適用となります。
手術侵襲が違えばADL低下に関わる組織が異なります。
また、偽関節や骨頭壊死などの術後のリスクの可能性にも差が出てきます。
手術の方法や骨折部の固定状態によって荷重開始時期が変わります。
安全な理学療法にはこれらの手術の特徴を理解しておくことが大切です。
この記事では大腿骨頸部骨折の手術について侵襲やリスクを中心にまとめています。
大腿骨転子部骨折の手術についてまとめた記事はコチラです。
大腿骨頸部骨折の特徴
関節包内の骨折であるため、骨頭への栄養血管が損傷されやすく、骨膜がないため骨膜性仮骨が形成されません。
そのため、大腿骨転子部骨折よりも骨頭壊死や骨癒合不全が生じやすいです。
とくに転位型の骨折ではこれらのリスクが高くなります。
骨折の分類にはGarden分類が用いられることが多く、StageⅠ~Ⅳに分類されます。
StageⅠとⅡは非転位型、StageⅢ~Ⅳは転位型です。
大腿骨頸部骨折の手術
非転位型では観血的整復固定術が適用され、転位型では人工骨頭置換術や人工股関節全置換術が適用されます。
観血的整復固定術
観血的整復固定術には以下のものがあります。
- Hanson pin
- Cannulated Cancellous Screw(CCS)
- Sliding Hip Screw(SHS)*Compression Hip Screw(CHS)は商品名
固定方法の違いによる術後の成績に有意差はありません。
これらの手術では腸脛靭帯、外側広筋が侵襲されます。
Hanson pinでは大腿骨頭を先端にフックが付いた2本のスクリューで固定します。
CCSでは大腿骨頭を先端がネジ山になっている3本のスクリューで固定します。
転位の有無に関わらず、骨折部が安定していれば手術の翌日から荷重が可能ですが、年齢や疼痛を考慮して部分荷重から開始することが多いです。
転位型で骨折部の安定性が不良な場合は、荷重の開始を1~2週間遅らせることもあります。
リスクとしては過度な荷重や回旋ストレスにより、
- 再骨折
- カットアウト
- 過度なテレスコーピング
- 偽関節(発生率:非転位型で最大15%、転位型で最大40%)
- 骨頭壊死(発生率:非転位型で最大21%、転位型で最大57%)
が起こることがあります。
過度なテレスコーピング…骨折部の圧迫力が過剰なことにより、頸部が短縮すること
人工骨頭置換術、人工股関節全置換術
全身状態が悪かったり、活動性が低い症例には人工骨頭置換術(BHA)が適用されます。
活動性が高い症例は人工股関節全置換術(THA)が施行されます。
どちらも手術翌日から全荷重が可能です。
リスクとしては
- 脱臼(発生率:最大7%)
- インプラント周囲の骨折(発生率:最大3%)
- 異所性骨化(発生率:約20%)
- インプラントの緩み
が起こることがあります。
インプラントの耐用年数は10~20年です。
インプラントはユニポーラ―型とバイポーラ―型があり、バイポーラー型の方がROMと疼痛、ADLが良好です。
インプラントの固定方法にはセメントとセメントレスがあります。
セメントを使用する方が疼痛は軽度ですが、血圧低下や突然死の報告があります。
また、再手術には高度な技術が必要とされます。
セメントレスは再置換術がしやすいというメリットがあります。
デメリットとしてはインプラントによっては術後1週間くらいの免荷期間を設ける場合もあります。

関節への侵入方法には前方アプローチと後方アプローチがあり、侵襲される組織と脱臼しやすい肢位が異なります。
前方アプローチ
縫工筋と大腿筋膜張筋の間を切開し、大腿直筋を切離して関節包に至ります。
最小侵襲手術(MIS)のDirect Anterior Approachでは大腿直筋は切離されずに内側に避けて行われます。
脱臼しやすい肢位は股関節の伸展+内転+外旋の複合運動です。
後方アプローチ
大殿筋が切開され、大腿方形筋以外の深層外旋六筋が切離され関節包に至ります。

縫合された場合はされない場合と比べて脱臼しにくくなります。
脱臼しやすい肢位は股関節の屈曲+内転+内旋の複合運動です。
まとめ

大腿骨頸部骨折の手術について侵襲やリスクを中心にまとめました。
手術方法によって侵襲や荷重開始時期が異なります。
また、偽関節や骨頭壊死などの術後のリスクの可能性は意外と高いです。
安全な理学療法には手術の特徴を理解しておくことが大切です。
参考文献
- 井上靖悟・他(2019)『エビデンスを参照した大腿骨近位部骨折患者に対する理学療法の考え方と進め方』理学療法36(1):11‐19,2019.
- 医療情報科学研究所編(2017)『病気がみえる vol.11 運動器・整形外科 第1版』メディックメディア.
- 松本正知(2015)『骨折の機能解剖学的運動療法 その基礎から臨床まで 体幹・下肢』青木隆明・林典雄監修,中外医学社.
- 相澤純也・中丸宏二編(2012)『ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション カラー写真でわかるリハの根拠と手技のコツ』神野哲也監修,羊土社.
- 加藤浩・他(2018)『講座 理学療法に関するガイドラインupdate・3 大腿骨頸部骨折/転子部骨折』PTジャーナル52(6):561-573,2018.