前回の記事では協調性運動のプロセスと原因についてまとめた。
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協調性障害への理学療法アプローチ
理学療法では運動学習によって協調性の改善を図る。
そのため、運動課題の難易度設定が重要である。
運動課題の難易度設定の考え方
運動学習に効果的な課題難易度は、課題の成功率が7~8割であり少し困難だと感じる程度が適切であるといわれている。
課題難易度は以下の8つを組み合わせて設定する。
- 運動の自由度
- 力学的安定性
- バランスの順列
- 正確性
- 速度
- 同時に処理する課題の数
- 環境
- 参照する感覚モダリティ
運動の自由度
運動の自由度が多いほど運動には協調性が求められる。
たとえば、文字を書くなら机に前腕を触れていると手関節と手指の運動だけであるが、前腕を机から浮かせた状態であれば肩関節の運動も要求されるため課題としては難しくなる。
歩行で考えてみる。
矢状面おいて通常は股関節の屈伸(自由度2)、膝関節の屈伸(自由度2)、足関節の背屈底屈(自由度2)の合計6の自由度である。
しかし、装具で膝関節を固定することで股関節と足関節だけの運動となり自由度4となるので運動課題として易しくなる。
力学的安定性
力学的に安定であるほど運動課題は易しくなり、不安定であるほど難しくなる。
支持基底面が広く、重心が支持基底面に近いほど力学的に安定である。
具体的には、背臥位→端坐位→立位となるにつれて運動課題の難易度は高くなる。
バランスの順列
バランスには静的バランス、動的バランスがある。
さらに動的バランスは支持基底面内での重心の移動と、支持基底面の変化を伴う重心の移動がある。
静的バランス→支持基底面内での重心移動→支持基底面の変化を伴う重心移動となるにつれて高いバランス能力が必要とされるため運動としては難しくなる。
正確性と速度
正確性はどれくらい課題を正確に行うかを指す。
速度はどれくらい課題を速く行うかを指す。
正確性と速度はトレードオフの関係にあり、正確性と速度の両立がもっとも難しい。
同時に処理する課題の数
同時に処理する課題の数が多いほど運動課題の難易度は高くなる。
会話をしながらの歩行はDual taskの代表例である。
環境
運動課題は環境によっても難易度が変化する。
たとえば、平地歩行よりも不整地歩行の方が難易度が高い。
騒がしい環境や緊張する環境での巧緻動作も難しい。
参照する感覚モダリティ
協調的な運動には感覚のフィードバックが不可欠である。
フィードバックされる感覚には次の3つがある。
- 視覚
- 体性感覚
- 前庭感覚
利用できる感覚が少ないほど協調的な運動は困難になる。
また、優位に利用する感覚を変更することで運動課題の難易度が調節できる。
視覚からの情報を増やしたければ明るい環境で課題を行ったり、鏡で自分が課題を遂行している様子をフィードバックする。
視覚情報を減らしたければ暗い環境や閉眼で動作を行う。
体性感覚を増やしたければ四肢遠位部や体幹に重錘を着けたり、弾性包帯を巻く。
減らしたければ柔らかいクッションの上などで動作を行う。
まとめ

協調性障害に対する理学療法アプローチについてまとめた。
協調性は運動学習によって改善を図る。
そのため、運動課題の難易度設定が協調性改善において重要である。
参考文献
- 市橋則明編(2014)『運動療法学 第2版』文光堂.