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痙縮とは?
他動的に筋を伸張すると速度依存的に筋緊張が亢進して抵抗が生じ、伸張反射を伴うものを痙縮といいいます。
伸張反射の亢進が著明な場合はクローヌスが出現します。
クローヌスとは筋の持続的伸張に対して律動的な筋収縮を繰り返す現象です。
さらに筋緊張の亢進が強い場合は折りたたみナイフ現象がみられます。
折りたたみナイフ現象とは筋緊張の亢進による抵抗感が強くなっている状態で、より強い伸張刺激を加え続けると逆伸張反射(Ⅰb抑制)によって筋が弛緩し抵抗感なく他動運動ができるようになる現象です。
痙縮の原因
脊髄の下位運動ニューロンと介在ニューロンは末梢からの求心性入力と上位運動ニューロンからの遠心性入力によって調整されています。
そのため、末梢からの求心性入力や上位運動ニューロンからの遠心性入力の障害が痙縮の原因となります。
末梢からの求心性入力の障害とは
筋の不動に伴う筋萎縮や筋短縮により、筋の粘弾性が大きくなります。
筋の粘弾性が大きくなると筋紡錘の感度が増加します。
つまり、求心性入力の異常が生じて痙縮が助長されます。
上位運動ニューロンからの遠心性入力の障害とは
正常において、伸張反射は外側皮質脊髄路と背側網様体脊髄路(延髄網様体脊髄路)によって抑制されています。
そのため、これらの経路が障害され伸張反射を抑制できなくなることで痙縮が発生します。
しかし、ここで大切なのは、錐体路の単独の障害では筋緊張が低下するだけで痙縮は生じないということです。
痙縮は錐体路以外の経路を含んだ障害によって起こります。
具体的には、背側網様体脊髄路は皮質網様体路からの遠心性入力を受けているため、運動前野や補足運動野から始まる皮質網様体路の障害が加わることで痙縮が起こります。
また、伸張反射を促進する経路には内側網様体脊髄路(橋網様体脊髄路)と前庭脊髄路があります。
そのため、外側皮質脊髄路や背側皮質脊髄路が障害されている状態で、これらの経路が何らかの影響により過剰興奮すると痙縮が助長されることになります。
痙縮の評価
痙縮の評価には安静時と動作時の評価があります。
安静時における痙縮の評価
主観的には視診で筋の形状、触診で筋の粘弾性を評価します。
客観的にはModified Ashworth Scale(MAS)が用いられます。

Modified Ashworth Scaleの他にはMidified Tardieu Scale(MTS)が用いられます。
Composite Spasticity Index(CSI)も用いられます。
動作時における痙縮の評価
動作観察によって評価します。
筋緊張は感情、精神、環境の影響を受けるため、動作だけでなくこれらの影響を考慮して評価する必要があります。
痙縮に対する理学療法
神経系に対しては物理療法や徒手療法によって相反抑制(Ⅰa抑制)、反回抑制、逆伸張反射(Ⅰb抑制)を利用して痙縮の軽減を図ります。
具体的には
- 温熱療法
- 電気刺激療法
- 振動刺激療法
- ストレッチ
- 筋腱移行部の圧迫
などが行われます。
末梢に関しては筋萎縮や筋短縮を改善するために筋力増強訓練やストレッチ、装具療法が行われます。
さらに、筋緊張が亢進しにくい運動を獲得することも必要であり、運動学習のプロセスを考慮した動作練習も必要です。
しかし、健側の運動前野と補足運動野が過剰に興奮すると半球間抑制により痙縮が増悪する可能性があるため、理学療法の際は健側上下肢の過剰使用に要注意です。
痙縮に対する理学療法以外の治療法
痙縮に対する理学療法以外の治療法には
- 経口筋弛緩薬
- バクロフェン髄注(intrathecal baclofen;ITB)
- 神経ブロック
- 反復経頭蓋磁気刺激療法(repetitive transcranical magnetic stimulation;rTMS)
- ボツリヌス療法(A型ボツリヌス毒素:botulinum neurotoxin type A;BoNT-A)
などがあります。
ボツリヌス療法は適切な理学療法によって効果が高まることが報告されています(君浦龍ノ介:脳卒中片麻痺患者の痙縮に対する理学療法.理学療法31(6):595-613,2014.)。