肩関節疾患や脳卒中片麻痺では肩関節屈曲能力の低下がADL上で問題となることが多いです。
そんなとき、肩関節屈曲時に肩甲骨の過剰な挙上がよくみられます。
この代償運動を引き起こしている僧帽筋上部線維の過剰活動を抑えて訓練を実施したいところですが、なかなか上手くいかないことは多いのではないでしょうか。
この記事では僧帽筋上部線維の過剰な活動を抑制しながらトレーニングする方法を紹介しています。
Contents
肩関節屈曲時に僧帽筋上部繊維が過剰活動する原因
原因としては以下の2つが考えられます。
- 肩甲上腕関節の運動性低下の代償
- 肩甲胸郭関節の安定性低下の代償
肩甲上腕関節の運動性低下は上腕骨頭を肩甲骨関節窩に固定する腱板筋、上腕骨を動かす三角筋の機能低下によって起こります。
肩甲胸郭関節の安定性低下は肩甲骨を胸郭に固定し上方回旋させる僧帽筋中部~下部線維、前鋸筋下部線維の機能低下によって起こります。

僧帽筋上部線維の活動を抑制する方法
肩関節屈曲という運動でも運動する肢位を変えることで筋活動は変化します。
僧帽筋上部線維の活動を抑制できる肢位は背臥位と側臥位です。
背臥位と座位での肩関節屈曲(30~150°)の筋電図積分値相対値を比較すると、背臥位で優位に僧帽筋上部線維の筋活動が低いことが報告されています。
また、側臥位の肩関節屈曲(30~120°)の表面筋電図において、一定して低い筋活動が観察されています。

僧帽筋中部繊維のトレーニング方法
表面筋電図にて、僧帽筋中部線維は側臥位での肩関節屈曲(30~120°)で一定して活動することが観察されています。

僧帽筋下部線維のトレーニング方法
僧帽筋下部繊維は背臥位において、筋電図積分値相対値で肩関節屈曲30~60°であれば座位時と比較しても有意差がないことが報告されています。

側臥位においては表面筋電図において屈曲30~60°で屈曲90~120°よりも少し高めに活動することが観察されています。

前鋸筋下部線維のトレーニング方法
前鋸筋下部繊維のトレーニングには背臥位で肩関節屈曲運動(30~60°)をします。
筋電図積分値相対値にて、座位と比較して屈曲30°で有意に前鋸筋下部線維の活動が高く、屈曲60°では座位と有意差がなかったことが報告されています。
三角筋前部線維の活動を促す方法
筋電図積分値相対値にて、三角筋前部線維は背臥位の肩関節屈曲30°で座位と比較して有意に活動が高いことが報告されています。

まとめ

僧帽筋上部線維の過剰な活動を抑制しながらトレーニングする方法について書きました。
同じ肩関節屈曲という運動でも肢位が異なれば筋活動も違ってきます。
これを上手く利用することで目的とする筋の過剰活動を抑えてトレーニングすることができます。
参考文献
- D.A.Neumann(2012)『カラー版 筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版』嶋田智明・有馬慶美訳,医歯薬出版
- 福島秀晃, 三浦雄一郎, and 森原徹. “運動肢位の変化と肩関節周囲筋の筋活動について.” 関西理学療法 17 (2017): 3-16.
- 福島秀晃, and 三浦雄一郎. “拘縮肩へのアプローチに対する理論的背景.” 関西理学療法 14 (2014): 17-25.
- 福島秀晃, and 三浦雄一郎. “肩甲上腕リズムの臨床応用を考える.” 関西理学療法 13 (2013): 23-32.